「チャーンレート」(解約率)とは、SaaS(Software as a Service)やサブスクリプションサービスといったビジネスモデルにおいて、特に重要視される指標です。
それはチャーンレートが高ければ利益の損失につながり、ビジネスの成長を阻害するからにほかなりません。
この記事では、チャーンレートの計算方法や、顧客がチャーンに至ってしまう原因、さらにチャーンレートの改善方法などをご紹介します。
目次
チャーンレートとは?
「チャーンレート(Churn Rate)」とは「解約率」のことで、顧客がサービスを解約する割合を示すものです。
場合によっては「顧客離脱率」や「退会率」とも表記し、ほとんどの場合は有料会員から無料会員への切り替えも含みます。
スポーツジムの「退会」やサブスクリプションの「解除」など、継続していたサービスを辞めることは多くの人が経験するものです。
しかし有料会員を獲得してサービスや製品を提供している企業にとってはマイナス要因であり、できる限り低くしたいものであることは言うまでもありません。
チャーンレートを数値化する際は、何を基準に考えるかによって「カスタマーチャーンレート」もしくは「レベニューチャーンレート」の2種類に分類されます。
その上で収益ベースで考えたときに、「ネガティブチャーン」の状態になるのが理想です。
今後のサブスクリプションやSaaSのカギを握るチャーンレートの重要性
チャーンレートは、SaaSやサブスクリプション形式を採用しているビジネスにとって、重視すべきKPI(重要業績評価指標)のひとつです。
ビジネスが成長するか、それとも衰退するかのカギを握っているものだと言っても過言ではありません。顧客の新規獲得はもちろん重要ですが、獲得よりも解約が多ければ赤字の状態になってしまいます。
チャーンレートを重視すべき理由は、収益に直結するからというだけではありません。ユーザーがサービスや製品に満足しているかどうかを測る指標にもなるからです。
チャーンレートが許容範囲を超えて高いのであれば、サービスや製品のクオリティーを根本的に見直しましょう。
カスタマーチャーンレート
カスタマーチャーンレートは、「解約したユーザー」や「無料会員にダウングレードしたユーザー」が、一定期間内にどのくらいの割合で発生したかを示すものです。
つまり「ユーザー数」を基準にして算出します。単に「チャーンレート」と呼ぶときは、このカスタマーチャーンレートを指していることが多いです。
全ての有料会員が一律の料金を支払うタイプのサービスでは、会員数と収益の増減が比例するため、カスタマーチャーンレートが重要な指標のひとつとなります。
レベニューチャーンレート
レベニューチャーンレートは、一定期間内の「収益」をベースとして算出します。
例えば1ヵ月あたり5,000円と10,000円の2コースを提供しているサービスでは、10,000円コースのユーザーが解約するほうが収益に大きな影響を及ぼします。
提供しているサービスが複数あり、価格がそれぞれ異なる場合は、カスタマーチャーンレートのみならずレベニューチャーンレートにも目を向けなくてはなりません。
チャーンレートの計算方法
それでは実際に、会員数や解約者数などのデータを用いて、チャーンレートを算出する計算方法を解説します。
カスタマーチャーンレートの計算式
カスタマーチャーンレートは次の式で求めることができます。必要なデータは「解約前の会員数」と「解約した会員数」です。
カスタマーチャーンレートは、会員数と解約者数から算出する最も基本的なチャーンレートです。
例えば1ヶ月間のカスタマーチャーンレートを調べたいときは、月初の時点での会員数と、月末までに解約した会員の数を把握する必要があります。
レベニューチャーンレートの計算式
レベニューチャーンレートは次の式で求めることができます。必要なデータは「サービスの単価」、「解約した会員数」、「総収益」です。
収益をベースとするレベニューチャーンレートでは、サービス単価ごとの解約者数や期間内の総収益を用いることで算出できます。
チャーンレートのケーススタディ
これらの計算式をもとに、ケーススタディを見てみましょう。次の条件でカスタマーチャーンレートとレベニューチャーンレートの両方を算出します。
・コースは5,000円と10,000円の2種類
・解約前の会員数は両コースそれぞれ10人
・測定期間内で10,000円コースの会員が3人解約
この場合、全体の「会員数」に注目すると20人から17人に減少しています。次の計算式に当てはめることで求められるカスタマーチャーンレートは「15%」です。
カスタマーチャーンレート=3÷(10×2)×100=15(%)
一方で全体の「収益」は150,000円から120,000円に減少しています。計算式によって求められるレベニューチャーンレートは「25%」です。
レベニューチャーンレート=10,000×3÷(50,000+100,000)×100=20(%)
このようにチャーンレートは、「会員数」と「収益」のどちらを基準するかによって変化します。
チャーンレートを計測する際は、どちらのチャーンレートが自社のビジネスにとってより影響が大きいのかを把握しておくことが重要です。
チャーンレートの平均値や目標値は?
チャーンレートの平均値は、3〜10%程度と言われています。ケーススタディでご紹介した例では、カスタマーチャーンレートもレベニューチャーンレートもかなり高めだと言えるでしょう。
理想としては3%以下だと言われています。
ただし、全ての業種でこの数値が絶対というわけではありません。業界や企業規模、ビジネスモデルによっても変化します。
一般的にはBtoB(法人向け)よりBtoC(個人向け)サービスのほうがチャーンレートは高くなります。
一例として、エンターテインメント業界ではおよそ5.2%程度、教育業界ではおよそ9.6%が平均というデータが出ているので、自社のビジネスモデルの平均値や理想値を把握しておきましょう。
(出典:Is your churn rate within a healthy range?)
チャーンレート導入の際のKPIの設定は?
チャーンレートは、データを基に算出するだけで良いというわけではありません。SaaSやサブスクリプションサービスでは、チャーンレートをKPIとして活用することが重要です。
KPIとは「Key Performance Indicator」の略で、日本語では「重要業績評価指標」などと表記されます。
例えば「自社のビジネスを5年で10%成長させる」という目標を立てたとしましょう。最終目標が決まったら、それを達成するためにどんな施策が必要かを練らなくてはいけません。
サブスクリプションサービスなら「知名度を上げる」、「会員数を増やす」、「解約者数を減らす」といった施策が有効です。
そこで「カスタマーチャーンレートを2%下げる」といったKPIを設定することで、最終目標達成までの道のりが明確になります。
カスタマーチャーンレートをどのくらいにするかという目標が定まれば、そのためには何が必要なのかもおのずと見えてきます。
チャーンレートを下げるための方法は、後述するチャーンレートの改善方法を参考にしてください。
3つ目のチャーンレート、ネガティブチャーンとは?
解約による損失に加え、既存顧客がもたらす増益を視野に入れて考えるのが「ネガティブチャーン」です。これは状態や状況を表す言葉であり、レート(率)ではありません。
SaaSやサブスクリプションのビジネスモデルでは解約をゼロにすることは事実上不可能であるため、解約で損をする以上に利益を上げることが重要になってきます。
ネガティブというと悪いことのようにとらえてしまいがちですが、経営状態としては良好であり、目指すべき状態だといえるでしょう。
ネガティブチャーンの状態に持っていく方法には「エクスパンション」、「アップセル」、「クロスセル」の3つがあります。
「エクスパンション」とは拡大・拡張という意味で、さまざまな方法でビジネスそのものを拡大させることです。
「アップセル」とは、現在利用中のサービスから上位のサービスへとアップグレードしてもらうことを指します。
「クロスセル」とは、現在の契約を継続しつつ違うサービスや商品を合わせて契約・購入してもらうことです。
チャーンに至る原因と改善方法
チャーンに至る原因
ユーザーが解約に至るのには、以下のような原因が考えられます。
・サービスに対して価格が高いと感じている
・サービス内容に不満がある
・競合他社のサービスに乗り換えたい
・業務形態の変化などによりサービスそのものが不要になった
チャーンレートを下げるには、これらの原因を排除することが重要です。
チャーンに至る原因の改善方法
解約に至る原因を分析することで、改善点が発見できます。チャーンレートを抑え、エクスパンションやアップセル、クロスセルを実現していく方法についてご紹介します。
既存の機能をしっかり伝える
チャーンレートが高い場合、サービスの内容や機能が顧客にきちんと伝わっていない可能性があります。
このケースでは製品に問題はないものの、プロモーション不足や使い勝手の悪さが原因となっていると考えられます。
「こういった便利な使い方があります」、「こうしたいときはこの方法で解決できます」という情報を積極的に発信していく必要があるでしょう。
ユーザーの疑問に答えられるよう、サポート体制を充実させるなどの施策も効果的です。
価格体系の見直し
価格を競合他社と比較し、サービスや機能が劣っていないかを確認しましょう。他社よりもサービスや機能が劣っているのに価格が高いとなれば、チャーンレートを下げることはできません。
つまり、製品の性能と価格が釣り合っていないことが、チャーンの原因だと考えられます。
改善のためにはサービスやサポート面を見直したり、機能面を改善したりする必要があります。
機能面で他社に勝てないのであればその分価格を下げ、「とにかく価格重視、性能はそこそこで構わない」というユーザーを取り込むのもひとつの方法です。
カスタマーサクセス
カスタマーサクセスとは顧客の成功のことを指します。
自社の利益ばかりを追求するのではなく、顧客へ働きかけて双方の利益を最大化させることが、チャーンレートの低下と業績のアップにつながります。
カスタマーサクセスでは、まず顧客が目指すゴールを理解していることが重要です。
その上で顧客のビジネスに貢献できるよう、効率の良い使い方をレクチャーしたり、役に立つ情報を提供したりして能動的にサポートを行います。
SaaSビジネスを促進するツールの導入
顧客とのコミュニケーション不足が、チャーンの原因となっているのかもしれません。
顧客とのコミュニケーションを促進するツールを導入し、顧客のサービスへの依存度を高め、愛着を持ってもらうことで、チャーンレートを低く抑えることができます。
顧客とのコミュニケーションを促進するツールとして、チャットボットを紹介します。
チャットボットは、サイト訪問者ごとに最適なオンライン接客を実現するツールです。
近年はAI技術なども進化しており、ユーザーからの問い合わせに柔軟に対応できるチャットボットも登場しています。
こういったWeb接客ツールを活用すれば、ユーザーの行動や問い合わせ内容に応じて最適なレコメンドを行うことが可能です。
チャットボットについて詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください↓
サービスと顧客の関係
解約されるサービスの種類と、顧客の企業規模や業種などの関連性を調査しましょう。
もしも特定の業種の顧客にチャーンが集中しているのであれば、サービス内容がその業種と合っていないと推測できます。その上で解約に至る原因を分析しましょう。
例えば「機能が物足りない」のと「使わない機能が多く費用をかけるのがもったいない」のでは、取るべき対策が異なります。
チャーンレートとLTVの関係
LTVとは、「Life Time Value(ライフ・タイム・バリュー)」の頭文字をとった言葉で、1人の顧客が生涯にわたってその企業にもたらす利益を表す指標です。
LTVの計算方法は以下の通りです。
LTVでは、既存の顧客が継続して商品やサービスを利用してくれること、つまり「リピーターの数」「購入回数」「購入頻度」「契約期間」などが重要なポイントになります。
企業にとってLTVは継続的に利益を上げるために重要な指標であり、LTVを高めていくことはビジネスの成長に直結します。
チャーンレートを下げるということは、「顧客にサービスを長い間継続的に使ってもらう」ということです。
チャーンレートを改善することは、LTVの向上に大きな影響を与えます。
その一方で、チャーンレートが上がるとLTVも下がってしまい、企業の利益に悪影響を及ぼすかもしれません。
チャーンレートの増減が企業にとって大きな差につながることを理解しましょう。
LTVについて詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください↓
チャーンレートを分析して新たな顧客の獲得を
SaaSやサブスクリプションサービスのビジネスモデルでは、顧客の獲得、契約の継続、アップセル、クロスセルといった複数の要素を伸ばすのが重要です。
特にビジネスを成長させるためには、チャーンレートの把握や分析が欠かせません。チャーンレートを基に必要な施策を立案・実行しながら、ビジネスを成長させていきましょう。