クロスセルとは、ある商品の購入を検討している顧客に対して、関連する別の商品を提案し、合わせて購入してもらう販売手法です。
購入単価の向上や、顧客の囲い込みにつなげられるメリットがあります。近年はECサイトやサブクリプション型サービスなど、特にWeb事業においてLTVを高めるものとして注目されている手法の1つです。
本記事では、クロスセルの手法や実行ステップ、企業事例や便利なツールを紹介します。
目次
クロスセルについて知っておくべき基礎知識
クロスセルとは、ある商品の購入を検討している顧客に対して、関連する別の商品も合わせて購入するように促す販売手法です。
業種業態を問わず、あらゆるビジネスで購入単価を上げる有効な手法として浸透しています。
例えばECサイトで商品を購入する際に、「この商品を購入したお客様はこちらも購入しています」、「こちらもおすすめです」といったメッセージでまとめ買いを促すことが、クロスセルにあたります。
購入単価を上げる別の手法としてアップセルもありますが、ここからはアップセルとの違いやクロスセルに取り組むメリット、注目される背景を解説します。
アップセルとの違い
アップセルとは、顧客が購入を検討している商品より、上位グレードの商品を薦めて購入単価を上昇させる販売手法です。
例えばPCを買いに来た顧客に、よりグレードの高いハイスペックな機種を薦めるケースが該当します。それに対してクロスセルは、PCそのものではなく、必要な周辺機器などもまとめて購入するよう促す手法を指します。
アップセルについて詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください↓
ダウンセルとの違い
ダウンセルとは、顧客が購入を検討している商品・サービスに対して、より低いグレードや低単価のものを薦める手法です。
利益よりも注文を取ることを優先したい場合や、顧客を競合企業に流出させたくない場合などに用います。
クロスセルに取り組む意義
クロスセルに取り組むことで、LTV(顧客生涯価値)のアップも期待できます。購入した商品の他にも魅力的な商品があることを伝えることで、顧客のファン化につながるからです。
LTVの計算方法は以下の通りです。
また単品では売れにくい商品も、関連商品としてセット販売することで売りやすくなる場合もあります。その他、関連商品に対する顧客の反応を見ることで、データの蓄積にもつながります。
LTVについて詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください↓
クロスセルが注目を集める背景
クロスセルが注目されている背景の1つは、技術の進展によるビジネス環境の変化です。ECサイトやSNSなどWebチャネルが多様化したことでデータの収集・蓄積が容易になりました。
またAI(人工知能)などの高度技術の発展で、データ分析やレコメンドの精度も飛躍的に向上しました。結果として、現在はクロスセルの手法の幅が広がり、LTVの向上にも取り組みやすい状況です。
また、もう1つの背景として、人口減少という社会的背景も関係しています。人口が減っていく中で、マーケットの奪い合いが激化。
「顧客数」だけでなく「顧客1人当たりの単価」も重要視されるようになり、そのことがクロスセルへの関心を高めているのです。
クロスセルの注意点
クロスセルは、顧客満足度の向上にもつながる施策ですが、やり方次第では、「押し売り」のように感じさせてしまう可能性もあります。
クロスセルの本当の目的は、顧客満足度の向上であることを常に意識しながら施策を行うことが重要です。
強引なクロスセルではなく、顧客に対してほかの商品をおすすめするような姿勢で施策を行いましょう。
クロスセルメリット
関連商品を一緒におすすめするクロスセルにはどのようなメリットがあるのでしょうか。クロスセルのメリットは大きく分けて4つあります。
1.顧客単価の上昇
2.売りにくい商品も一緒に購入してもらいやすくなる
3.営業効率が向上する
4.自社のリピーターになりやすい
クロスセルのメリットはどれもビジネスにおいて、利益に直結するものばかりで営業活動において必要不可欠です。
それではクロスセルのメリットについて順番に見ていきましょう。
1.顧客単価の上昇
クロスセルは本来販売したい商品に関連した商品を追加販売するので、購入する予定のモノやサービスに追加して販売することで顧客の契約単価を上げることができます。クロスセルでは販売する際に合わせて関連商品の販促をするので、広告費や経費がいっさいかかりません。
そのため新規顧客の獲得や広告費などの販促費用にお金をかけてしまっている場合、クロスセルは非常に有効な手段となります。
2.売りにくい商品も一緒に購入してもらいやすくなる
クロスセルを活用すれば、単体では売れにくい商品でも売り上げを上げることができます。
例えばカメラのレンズが単体で販売しにくい場合、カメラとセット価格で販売することによってお得に感じ購入を促進するなどで売れやすくなります。その他にもスーパーやショップなどで関連商品2点以上購入で◯%OFFもクロスセルとも言えるでしょう。
上記のように関連商品の取り扱いがある場合は、クロスセルで販促を検討してみてはいかがでしょうか。
3.営業効率が上がる
クロスセルのメリットは売り上げだけでなく、「営業効率の向上」です。クロスセルを行うことによって、それぞれの商材ごとにアポイントを取ったり、新規顧客にアプローチをする手間が省けます。一度の商談で複数の商材を営業でき契約できれば、営業の効率が上がりますよね。
万が一提案した結果、成約に至らなかったとしても関連商材の存在を顧客伝えることができるので今後の売り上げにつなげることができます。営業効率が悪く時間や人件費がかさんでしまってる場合、クロスセルは非常に有効な手段ですので
検討してみてはいかがでしょうか。
4.自社のリピーターになりやすい
クロスセルによって関連商材を提案することにより、顧客満足度の向上が見込めます。商品を単体で購入するよりも追加で関連商品を紹介されて、顧客にとって利益のあるものですと探す手間や時間を省けます。
その結果、信頼度やブランドに対するイメージが向上するのでリピートやLTVの向上が見込めるでしょう。
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クロスセルを行う2つのパターン
クロスセルの施策には、関連商品を提案するパターンと、補完的なサービスを提案するという2つのパターンがあります。以下では、これらを順番に解説します。
1.関連商品を提案する
クロスセルの1つ目のパターンとしては、顧客が購入しようとしている商品と関連する商品をセットで薦める方法が挙げられます。
例えば、皮財布を購入しようとしている顧客に対して、オイルなどのお手入れ用グッズを提案したり、ECサイトにおいて関連商品を表示したりすることもクロスセルです。
また、実店舗の場合は買い忘れしやすい商品をレジ横に陳列することがこのパターンに該当します。
2.補完的なサービスを提案する
もう1つは、購入しようとしている商品や、あるいはすでに利用中の商品・サービスに対して補完的なサービスを提供するというパターンです。
例えば、自動車の販売時に、月額制のメンテナンスプランも提案するケースや、クラウドサービスの利用客にオプションのコンサルティングプランも提案するケースが挙げられます。
米国の剃刀メーカーのダラーシェーブクラブ社は、会員にカミソリの替刃を定期的に届けるというサブスクリプションモデルに加えて、スキンケア商品とのまとめ買いも促すというクロスセルを実現しています。
上記のように、近年ではサブスクリプションモデルなど、継続利用を前提としたサービスも普及している状況です。
そこで、補完的サービスを提案することで、カスタマーサクセスに貢献する考え方も広まりつつあります。カスタマーサクセスとは顧客の成功を指し、これに貢献するクロスセル手法は、BtoB、BtoCを問わず重視される手法です。
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アップセル・クロスセルを増やして顧客の単価を上げる方法
アップセルやクロスセルの成功率を高めるために重要なのが、誰に、どんな商材を提案するか。やみくもにクロスセルの提案をしても期待した効果はなく、かえって信頼を失ってしまう可能性があります。そのため顧客の情報収集を行なった上で、消費傾向や抱えている課題を把握しニーズにマッチした提案をすることが大切だと言えるでしょう。
またクロスセルやアップセルの提案が通りやすいのは、自社に対する信頼や愛着が高い客層です。その理由はアップセルやクロスセルで提案する商材は顧客が健在的ニーズにマッチしている商品ではないからです。
そのためアップセルやクロスセルの成約率を高めるためには顧客の自社に対する信頼度や愛着を段階的に分類する必要があります。具体的な方法としてはNPS
(ネットプロモータースコア)が有効的で、自社の商品に対して「推奨派」⚫︎「中立派」⚫︎「批判派」の3つに分類して「推進派」にアップセルやクロスセルを積極的に行いましょう。
そうすることによってアップセルやクラスセルの提案により顧客離れのリスクを軽減でき、成約率の向上につながります。その他にも「推奨派」が自社のどの部分に魅力を感じてるのか、評価のポイントが洗い出すことができ、「中立派」や「批判派」が「推進派」へと変わるヒントが隠されている可能性があります。
自社の強みや弱みを分析したい際はNPSの手法は非常に有効な手段となることが分かりますね。
クロスセルを実行するための4ステップ
ここからは、クロスセルを実行するための4つのステップを順番に解説します。
1.既存のデータを分析する
クロスセル施策に取り掛かる前に、まずは既存のデータを分析する必要があります。具体的な分析ポイントは以下の通りです。
– 既存の顧客属性
– 購買履歴
– 問い合わせ内容
– ECサイトのアクセス状況
これらを分析することを通して、顧客がどのようなニーズを抱えており、どのような購買傾向があるのかを探ります。
また「アソシエーション・ルール」の分析も効果的です。アソシエーション・ルールとは、同時に起こる確率が高かったり関係性が強かったりするものの組み合わせを指します。
この例で有名なのが「紙おむつとビールの法則」です。これは米国の調査において、「ショッピングセンターで紙おむつを買う家族はビールも一緒に買う」という傾向が見られたことを由来とする法則を指します。
このように、まずは顧客の購買傾向を分析することが大切です。
顧客のロイヤリティ(愛着や信頼)を測る手法としては「NPS(ネットプロモータースコア)」も効果的です。
これは、調査対象者に特定の製品、サービス、ブランドを周囲の人物に薦める可能性について0から10までの11段階で答えてもらい、そのスコアに応じて「批判者」、「中立者」、「推奨者」に分類する手法を指します。
この調査によって、企業やブランドに対するロイヤリティを測定することが可能です。
2.販促のシナリオプランを構築する
分析結果から、クロスセル販促のシナリオプランを構築していきます。
例えば「30代男性セグメントにおいてはA商品とB商品が同時に購入されている」といった傾向が見られるのであれば、今後いずれかの商品を購入する顧客には、もう片方も積極的にレコメンドするといったアプローチが考えられるでしょう。
販促シナリオやレコメンド施策を検討する際は、特に以下の項目を重点的に検討するのが効果的です。
– タイミング
– 頻度
– 期間
– 価格
– 商品の種類
3.施策を実行する
次は、構築したシナリオプランに基づいて施策を実行していきます。なお、大量の顧客を抱えている場合、施策を実行したり個別の施策を管理したりする際、人手だけでは限界があるでしょう。
そのような場合は、CRMやMA(マーケティングオートメーション)といったツールを活用すると便利です。クロスセル施策に役立つツールについては後述します。
4.継続的に効果検証を行う
施策は行なって終わりではなく、効果測定で仮説を検証することが大切です。例えば、検証の結果、関連性の高い製品・サービスが特定できたり、逆に関連性の低い製品・サービスを洗い出せたりすることもあります。
このような発見を繰り返すうちに、より売上にインパクトを与える施策が徐々に明らかになっていくものです。
また、優秀な方法が見つかったとしても、継続的に効果測定をして最適化するためには常にデータを蓄積していく必要があります。
計画、実行、検証、改善のいわゆるPDCAサイクルを効果的に繰り返すためにも、継続的な効果検証が大切です。
クロスセルを実践している企業事例
クロスセルを実践している企業事例としてAmazon、吉野家、パナソニックの事例を紹介します。
Amazon
Amazonはサイト上で購入しようとしている顧客に対して、「よく一緒に購入されている商品」や「関連するスポンサー商品」を提案しています。
例えば書籍を購入しようとすると、同じ著者の書籍や同じジャンルの書籍が表示される仕様です。こういった提案は「レコメンドエンジン」という仕組みによって実現されています。
Amazonのように膨大な商品数を扱っているECサイトでは、顧客が目的の商品を見つけられないという問題がしばしば起こりますが、Amazonはこのレコメンドエンジンによって最適な提案をすることで、クロスセルに成功しています。
吉野家
吉野家は、戦略的にクロスセル施策に取り組むことで成果を挙げました。まず施策を実行するにあたって、ユーザーのニーズを精密に分析。
また、欲しい商品をタイミング良く訴求し、その上で売り込み感を抑えるようにデザインにも配慮したのです。
その結果、半年でクロスセル商品の販売数・売上が開始前の4.1倍になり、平均購入単価の大幅アップを実現しました。
パナソニック
パナソニックは、「CLUB Panasonic」の会員情報を活用し、クロスセル施策を実施。例えば、会員が保有している商品に基づいた関連商品の告知や、商品サイトの閲覧履歴を基にしたレコメンドメールも実施しています。
これは、顧客満足度を高めてロイヤルカスタマー(優良顧客)に転換させ、LTVを高めることが大きな目的です。
顧客と日常的にコミュニケーションを取ることで親近感を高め、愛用者アンケートにも協力してもらうことで商品力を強化したいという狙いもあります。
クロスセルの実践に役立つツール
クロスセル施策を実行するには、ツールがあると便利です。ここでは3種類のツールを解説します。
1.アクセス解析・分析ツール
アクセス解析ツールとは、Webサイトのユーザー属性、デバイス・環境、行動、CV数などWebサイトのあらゆるアクセス記録を管理・分析するツールです。
例えば「Google Analytics(グーグルアナリティクス)」をはじめとするアクセス解析ツールやヒートマップツールといったものが挙げられます。
アクセス解析・分析ツールの効果的な分析方法としては、「どの商品への関心が強いのか」、「どの商品ページから、どのページに遷移しているのか」を定量的に洗い出すというものです。
その結果、関連ニーズの発見につながり、クロスセル施策に役立ちます。
2.顧客情報管理ツール
顧客情報管理ツールとは、顧客の属性情報や購買履歴など、顧客に関するあらゆる情報を管理するツールです。代表的なものにCRMやMAなどがあります。
CRMとは顧客との関係を強化・維持することを目的に、顧客情報や顧客に関連する社内情報を管理するツールです。
MAは主に新規顧客獲得やナーチャリングを目的に、メールマガジンなどの顧客アプローチを効率化・自動化できます。
こういったツールがあれば、顧客情報や購買記録などを一元管理することで精度の高い分析がしやすくなり、クロスセルのレコメンドも可能です。
3.Web接客ツール
Web接客ツールとは、顧客の行動状況から心理状態を分析することで、最適な提案を行うツールです。
例えば、ロボットが自然な会話を実現するチャットボットは、ユーザーの問い合わせ内容や購入を検討している商品情報を基に、関連商品をレコメンドするようにプログラムすることができます。
また、購入を検討しているユーザーには、割引情報や関連商品を提案してCVにつなげる、ポップアップツールなども効果的です。
Web接客ツールはユーザーの行動履歴をデータとして蓄積できるため、現状分析を行う際にも最適です。
Web接客について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください↓
実際にチャットボットを活用した事例
株式会社フロムココロ
導入の目的:CVRの改善
導入後の成果:CVRが150%改善
自社のEC商品「デイリーワン」のマーケティング担当を務める湯浅さんは、サイトからの商品購入率(=CVR)を高めるべく、様々な施策を試していました。
年々厳しくなる傾向にある景品表示法をはじめとした法律の影響を受けるなかで、商品LP(ランディングページ)内のクリエイティブの順番や文言を変えるといった地道な施策を積み重ねる日々。
しかし、それらの施策も数値改善のインパクトとしては物足りず、残されている施策は徐々にジリ貧となりました。
そこでCVRを改善する起死回生の一手として導入したのが、チャットボット。
結果的に、CVRは150%改善しました。
また、商品注文完了後のアップセル施策も行い、アップセル率も通常と比べて5ポイントアップすることに成功しました。
チャットボットについて詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください↓
まとめ
クロスセルとはある商品の購入を検討している顧客に対して、別の関連する商品も紹介することで購入単価を高める手法です。
よく比較される手法にアップセルがありますが、アップセルとは顧客が購入を検討している商品より、上位グレードの商品を薦めて購入単価を上昇させる販売手法です。
本記事で紹介した成功ポイントや事例を参考に、購入単価の向上に役立ててください。