LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)というマーケティング手法をご存じですか?
現在の日本では、人口減少や経済の成熟から、新規顧客獲得が難しくなってきています。そのため、企業は従来のマーケティング手法だけでは、安定した成長を続けることが難しいです。
そこで今注目を集めているのが、LTVを用いたマーケティング手法です。
今回の記事では、以下の点について詳しく解説しています。
・LTVとは?
・LTVを向上させる8つの施策
・ユニットエコノミクスについて
・これからのLTV向上に重要なキーワード
目次
LTVとは?
LTVとはLife Time Valueの略で、日本語に直すと「顧客生涯価値」のことです。つまり、一人の顧客が生涯にわたり自社にどれだけの利益をもたらしているかの指標です。
この指標が、現代のマーケティングにおいて注目を集めている理由は、顧客との長期間の友好的な関係維持を目指しているという点にあります。
高度経済成長期の日本では、マーケティングとはいかに新商品や新しいサービスを開発して、新規顧客を獲得するかという点に重きを置いていました。それは、経済が未成熟で市場には新規顧客が溢れていたからです。
しかし、経済は次第に成熟し、市場は高品質の商品やサービスであふれ返った飽和状態となりつつあります。すると顧客は、ハード面だけでは商品・サービスをはっきり差別化できなくなってきました。さらに、人口が減少傾向にあることも影響し、現在では市場での新顧客獲得が非常に困難になっています。
そのため、企業の多くが既存顧客と良好な関係を築き、長きにわたって安定的な利益をもたらしてもらうというマーケティング手法であるLTVを導入しています。
LTVの算出方法
LTVを算出するには、さまざまな数式が用いられます。それは、企業によって利益体系や抱えている課題が違うからです。
ここでは、代表的な算出方法をいくつかご紹介します。
まず、最も基本的な数式として使われているのが、下記計算式です。
LTV=平均購買単価×平均購買頻度×平均継続購買期間
たとえば、平均購買単価が5,000円、平均購買頻度が年6回、平均継続購買期間が20年の場合だと、5000×6×20=600,000円です。
平均継続購買期間は、解約率などから算出できます。解約率が10%のときは10年、解約率が20%だと5年と考えます。もし利益ベースで算出する場合は、平均購買単価(売上の場合)に粗利率を掛けるか、原価を引いて計算します。
期間の単位は、業種や利益構造によって異なります。たとえば、年契約を結んでいる場合は年ベース、月額で契約しているのであれば月ベースにするとよいでしょう。
また、次の計算式も活用されています。
LTV=ARPU/レベニューチャーンレート
ARPU(Average Revenue Per User)は「1顧客あたりの平均売上」のことです。
たとえば、ARPU2,000円、レベニューチャーンレート5%の場合、2000÷0.05(5%)=40,000円ということになります。
また、レベニューチャーンレートとは、総収益に対する解約で発生する損失額の割合です。
数値を求める数式は、以下の通りです。
(単価×解約数)÷総収益×100
LTVを向上させる8つの方法
では、LTVを向上させるためにはどのような施策を講じればよいのでしょうか?
向上させる8つの方法とは、以下の通りです。
【平均購買単価を上げるためのアプローチ】
・商品やサービスの単価を上げる
・商品に複数のバリエーションを持たせる
・アップセル、クロスセルを行う
・原価を抑える
【平均購買頻度、平均継続購買期間を上げるためのアプローチ】
・リマインドメールを送る
・顧客ロイヤルティを向上させる
・解約率を下げる
・サブスクリプションビジネスモデルを導入する
ここでは基本算出式から、「平均購買単価」「平均購買頻度」「平均継続購買期間」のそれぞれの項目に着目しました。
それでは、ひとつずつ詳しく解説していきます。
商品やサービスの単価を上げる
商品やサービスの単価を上げると、必然的に平均購買単価も上がるのでLTVは向上します。
しかし数字を意識するあまり、むやみな値上げを行うことは逆効果になってしまうことがあるので、注意しましょう。突然の値上げは既存顧客の不信感を生み、最悪の場合離脱に繋がります。
既存顧客との関係維持の重要性は上で述べた通りですが、一度既存顧客を失うと今まで見込んでいた長期的な利益を失うだけではありません。新たに新規顧客を獲得し、良好な関係性を持てるところまで育成する必要が出てくるのです。
商品やサービスの値上げを行う際には、新たな付加価値の追加など、既存顧客が納得できるような工夫をすることが大事です。
商品の価格にバリエーションを持たせる
商品のグレードやサイズにバリエーションを持たせ、複数の価格帯を用意することも平均購買単価向上のために有効な施策と言えます。
マーケティング業界では、「松竹梅の法則」という法則が使われることがあります。これは、人間は3段階の選択肢の中から選ぶとき、中ほどのものを選びやすいという心理傾向を表したものです。
マーケティングにおいては、安価、中ほど、高額の3段階の価格帯を用意することで中ほどの価格の購買を誘導できるのです。そのため、安価の商品だけを扱うよりも購買単価の上昇が見込めるというわけです。
飲食店で販売されているドリンクがS・M・Lに分かれていたり、スーパーのお総菜売り場で同一商品が大・中・小のサイズで売られていたりするのも、この法則に則ったマーケティング施策なのです。
アップセル、クロスセルを行う
アップセル、クロスセルは、顧客一人あたりの購買単価を向上させる手法です。
アップセルとは、商品やサービスのバージョンアップや顧客の買い替えのタイミングに合わせて、より高額な上位商品をおすすめし購入してもらうという手法のことです。この場合、アプローチする顧客はそもそも自社商品の価値を理解していたり、購買意欲があるので新たなニーズを一から掘り起こすより効果的な単価アップが望めます。
たとえば、今までガラケーを使っていた顧客に、スマホに乗り換えてもらうのはアップセルと言えます。アップセルを行うときは、顧客目線に立った納得感のある説明をすることが必要です。
クロスセルとは、ある商品を購入した顧客に関連商品もおすすめして購入してもらうことで、購買単価を上げるという手法です。クロスセルが成功すると、企業の利益向上だけでなく、顧客側にも何度も購買活動を行う手間を省くことができるというメリットが生じます。
クロスセルの手法は身の回りに多く見られます。たとえば、スーパーのレジ横にガムや電池が配置してあるのは、買い忘れやついで買いなどのクロスセルを目指したものです。また、飲食店のカウンターで、販売員が「ご一緒に新商品のご利用はいかがですか?」と問いかけるのもクロスセルの手法にあたります。
最近ではECショップで買い物をすると、「この商品をご覧になっている方はこちらの商品にも興味があります」と他商品が合わせて表示されるという施策もよく目にします。
アップセル、クロスセルともに成功すると顧客のリピーター化にも繋がる手法です。逆に、強引な誘導は信頼を失う原因となるので、提案は慎重に行いましょう。
原価を抑える
利益ベースでLTVを算出する場合、原価を抑えることも改善の施策として有効です。顧客が決済する金額が変わらなくても、商品やサービス自体の原価が下がれば収益が上がり、LTVは向上するのです。
具体的には、仕入れ先の再検討や価格交渉のほか、経費削減などが考えられます。
特に、サブスクリプションビジネスなどのITサービスの場合、営業ツールを利用して業務の効率化や人件費削減を行うのも効果的です。
リマインドメールを送る
リマインドメールとは、顧客が忘れてしまったことを思い起こさせるためのメールのことです。
ECサイトのショッピングでカートに入れられる商品のうち、約7割は決済されずに放置されると言われています。※2)これをカゴ落ちと言います。カゴ落ちの理由は色々ですが、中には購買意欲がありながら決済を忘れてしまったり、他社の商品と比較検討段階にある場合があるのです。こうした顧客に適切なタイミングでメールを送ることで、忘れていた購買意欲を思い出したり他社への乗り換えを阻止したりできます。
リマインドメールは、あまりに回数多く送ると顧客の負担になるので、送るタイミングを見極めることが大事です。また、同じ内容を何度も送っても飽きられてしまうので、送るタイミングによって内容を工夫しましょう。
※2)参考URL:https://baymard.com/lists/cart-abandonment-rate
会員登録を活用する
顧客に会員登録をしてもらい、活用する具体的な方法としては、
・メールマガジンの配信
・会員特典を充実させる
などが挙げられます。
メールマガジンを定期的に送ることで、顧客に企業や商品の価値や魅力について理解してもらえます。配信する内容は商品の紹介だけに固執せず、業界の動向や商品に関するお役立ち情報などを盛り込みバラエティー豊かなものにすると効果的です。
会員特典を充実させることも有用です。会員限定のポイントアッププログラムや会員ランクの策定などを行うことで、顧客に長い間商品やサービスを利用してもらいましょう。
また、会員登録時やその後のコミュニケーション時に集めた顧客情報を活用するためには、CRMの実施が有効です。
CRMとはCustomer Relationship Managementの略で、「顧客関係管理」という意味です。顧客との接点におけるあらゆる情報を一元的に管理し、より良好な関係性の構築に役立てていくというマーケティング手法は、LTV向上と非常に相性の良いと言えます。 しかし扱うデータの量が膨大なため、全てを人の手で実施する場合、時間がいくらあっても足りないという状況になりかねません。また、一度のミスが顧客との関係性に大きく影響する恐れもあります。
そのため、CMRツールやMA(Marketing Automation)ツールを利用し、適切にデータを管理活用することが重要なのです。
解約率を下げる
解約率を下げることは、平均継続購買期間を伸ばすことに繋がります。解約率に課題がある場合、まずは顧客の声をしっかりヒアリングしましょう。営業担当やお客様窓口を通じて、積極的に情報を集めることが大切です。
Webサービスやアプリを展開している企業であれば、チャットボットなどのWeb接客ツールを利用して、解約画面からアンケートを行うと効率よく情報収集ができるのでおすすめです。
サブスクリプションビジネスモデルを導入する
サブスクリプションビジネスモデルを導入することは、平均継続購買期間を伸ばすことに役立ちます。
サブスクリプションビジネスモデルとは、必要なだけ料金を支払うことで、一定期間に渡るサービスが受けられるというビジネスモデルのことで、近年日本でも多く見られるようになりました。動画配信サービスの「Netflix」や、音楽配信サービスの「Spotify」などを利用したことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
サブスクリプションビジネスモデルは、顧客との一定期間の継続的な関係を構築でき、安定した収益を見込めるため、LTVとも相性が良いと言えます。また、顧客とのやりとりはオンラインで行うことが多いので、顧客情報を効率よく集められる点にもメリットがあるのです。
LTVを使用する重要指標「ユニットエコノミクス」とは?
ユニットエコノミクスは、LTVを活用するために知っておくべき指標です。
特に、SaasなどのサブスクリプションビジネスでLTVを活用する際には、ユニットエコノミクスをチェックしておかないと間違った経営判断に繋がる恐れもあります。
ここでは、LTVと一緒に使用すべきユニットエコノミクスについて解説していきます。
ユニットエコノミクスとは?
ユニットエコノミクスとは、日本語に直訳すると「1単位あたりの経済」となります。つまり、顧客1人あたりの採算性や収益性を測るための指標なのです。算定にはLTVとCAC(Customer Acquisition Cost:顧客獲得費用)を用います。
ユニットエコノミクスは、Saasなどのサブスクリプションビジネスモデルの普及とともに注目されるようになってきました。
サブスクリプションビジネスモデルでは、さまざまなチャネルに広告宣伝を行い、新規顧客獲得を目指します。一方で、利益構造は「従来の一つ売れば完結型」のビジネスと違い、一定期間の中で利益を回収し収益を上げていく形になっています。
そのため、さらにコストをかけて新規顧客獲得活動を拡大してもよいのか、改善の対策を講じたほうがよいのかの判断するには、LTVとCACの両方が加味された数値を利用する必要があるのです。
もし、ユニットエコノミクスを考慮せずに経営判断をすると、実際は顧客数が伸びて成長段階にあるのにも関わらず数字上赤字経営のように見えてしまうことがあります。逆に、順調に見えても実は収益性が低い場合もケースもあります。この場合、将来的に採算が合わなくなってしまう恐れもあるのです。
ユニットエコノミクスの算出方法
ユニットエコノミクスを算出する際の数式は、以下の通りです。
ユニットエコノミクス=LTV/CAC
この場合のLTV算出には、上でも説明した「LTV=ARPU/レベニューチャーンレート」の式を用います。
ちなみにCAC算出には、以下の数式を利用します。
CAC=新規顧客獲得にかかった費用/新規顧客獲得数
ユニットエコノミクスの目安
それでは、実際に算出した数値はどのくらいであるのが適正でしょうか?
たとえば、ユニットエコノミクスが1以下の場合は、LTVがCACより低いという状態です。これは、現段階で新規顧客獲得費用すら回収できていないということで、早急な改善が必要となります。
また、サブスクリプションの中でもSaasのようなビジネスモデルの場合、目安は「3」以上と言われています。LTV/CAC>3xという目安の不等式を、みたことがある方もいらっしゃるかもしれません。これは、1人の顧客のもたらす利益が新規顧客獲得費用の3倍以上ないといけないという意味なのです。
LTV向上のための2つのキーワード
最後に、新型コロナウイルスの影響もあり様変わりしたこれからの社会における、LTV向上のための2つのキーワードとして、
・カスタマーサクセス
・イノベーションアカウント
をご紹介します。
カスタマーサクセス
カスタマーサクセスとは、顧客が商品やサービスを購入するときにイメージする成功体験を支援することで、より商品・サービスや企業に対する愛着を高めるというマーケティング手法です。
未だコロナ禍にある現代では、実店舗での買い物が避けられる傾向が続いています。顧客の多くは、オンラインでのネットショッピングをこれまでよりも利用するようになりました。また、株式会社クウォーレが行ったアンケート調査※1)によると、長引く自粛生活にストレスを感じオンラインでの衝動買いをしてしまった顧客の割合は全体の約99%という結果で、ネットでたまたま見かけた商品を気軽に購入してしまう購買パターンが急増していました。
一方同調査によると、「衝動買いをした商品を今後も使用しますか?」という質問項目に対しては約60%の人が、「多分使用しない」「使用しない」と答えています。
ECサイトなどでは、LTV向上のために欠かせない購買頻度や継続購買期間の改善が特に今後の大きな課題となってくるでしょう。
カスタマーサクセスを取り入れることは、こうした衝動買いの顧客にアプローチ・育成し、自社のファンになってもらうことに繋がります。こうした点で、LTV向上のための取り組みとして効果的と言えるのです。
※1)参考URL:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000079600.html
イノベーションアカウンティング
イノベーションアカウンティングとは、短期間で粗利を算出しPDCAサイクルを回す、会計手法の一つです。導入することで、カスタマーサクセスがLTV向上に貢献しているのかを検証するための方法として役立ちます。
従来のマスマーケティングと異なり、LTV向上のためのマーケティングでは、ひとりひとりの顧客の長期的なリピート購買を目指しています。そのため、リピート獲得効率によってコストは顧客の動きに合わせて常に変動しています。獲得効率改善のためには、リアルタイムでの現状把握とスピーディーな施策の実行がカギになってきます。
このように、LTV向上のためにはこれまでの月次や四半期会計を待っての効果測定では、迅速な施策実行に間に合わなくなってしまいます。そこで注目させるようになった新たな会計手段が、イノベーションアカウンティングです。
イノベーションアカウンティングの代表的な算出方法として挙げられるのが、上でも紹介したユニットエコノミクスです。ユニットエコノミクスは、使用する変数が限られているので、課題を発見しやすく施策に繋げやすいというメリットがあります。
LTV向上ならBOTCHAN
LTVは、顧客との長期間にわたる友好的な関係性から利益をあげることを目的としたマーケティング手段です。
現代の日本においては、人口減少や経済の成熟などの理由から、新規顧客獲得と同様に既存顧客の維持が重要視されています。特にECサイトなどのオンラインサービスにおいては、新型コロナウイルスの影響もあり、LTVの観点は今後の成長に不可欠なものとなっています。
LTV向上のための第一歩は、顧客とのコミュニケーションから得られる情報収集です。上でも解説したように、オンライン接客ツールを使えば、より効率的に顧客との接点を持てるので施策立案にも役立ちます。
そこでおすすめなのが、チャットボットを利用したツールです。
チャットボットとは、Web上でロボットが自動的に顧客と会話を行うプログラムです。顧客にとってチャット方式のコミュニケーションは、普段からLINEやDMなどで慣れ親しんだ形式のため、ストレスを感じさせることなくスムーズな情報収集が実現できるのです。
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