アップセルとは、顧客が購入を検討している商品よりも、上位の商品・サービスを薦めて、購入単価を上昇させる販売手法です。
営業効率の改善の他にも、高付加価値サービスの提供による顧客満足度の向上につながるといったメリットがあります。
近年はECサイトやサブスクリプションサービスといったビジネスにおいて、LTVを高めるための重要な手法として注目されています。
本記事ではアップセルの手法や実行ステップ、便利なツールを紹介します。
目次
アップセルについて知っておくべき基礎知識
アップセルとは、顧客が購入を検討している商品より上位の商品・サービスを薦めて購入単価を上昇させる販売手法です。
例えばコーヒーショップで中サイズのコーヒーから大サイズのコーヒーを薦めたり、家電量販店で1万円台のプリンターを買いに来た顧客に、便利な機能が付いている2万円台の最新機種を薦めたりするケースが該当します。
BtoBやBtoC、対面接客やWebサイトなどを問わず広く用いられている手法です。
クロスセルとの違い
クロスセルとは、ある商品の購入を検討している顧客に対して、関連する別の商品もまとめて購入するように薦める販売手法です。
一方、アップセルはより高単価の商品を薦めます。
例えば、車を買いに来た顧客に、カーナビやドライブレコーダーなどの追加サービスもまとめて薦めるのがクロスセルであるのに対して、アップセルはよりグレードの高い車種を薦めるというイメージです。
クロスセルについて詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください↓
ダウンセルとの違い
ダウンセルとは、顧客が購入を検討中の商品・サービスに対して、より低いグレードのものを薦めたり、低単価のものを薦めたりする手法です。
購入単価を高めるよりも注文を取ることを優先したい場合に用いる手法であり、上位品の購入を促すクロスセルとは対照的と言えます。
アップセルに取り組む意義
アップセルでは、高価格であっても顧客にとって最適な商品を提案することで、顧客満足度のアップにつなげられます。
さらに、購入単価を高めると売上の増加に加えて営業効率のアップも見込めるでしょう。またアップセルによってLTV(顧客生涯価値)の向上や利益構造の強化にもつながります。
また、いままでは営業活動をする上で、新規顧客開拓に比重が置かれがちでしたが、現在は既存顧客への重要度が高まっています。
比較対象となるモノやサービスが増えているため、新規顧客を得るためのコストも増加しています。
そのため、新規開拓と同時に既存顧客にもフォーカスをあてる必要が出てきました。
購入単価について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください↓
アップセルが注目を集める背景
近年、データを活用してより最適な上位商品を薦められる技術的な基盤が整ってきています。例えば、ECサイトなどのWebチャネルが普及したことで、きめ細かなデータの収集・蓄積が可能となりました。
また、AI(人工知能)などの技術の発展で、顧客行動の分析やレコメンドの精度が向上してきたことも、アップセルが注目を集める理由です。
アップセルの注意点
アップセルは、顧客満足度の向上に繋がる施策ですが、気を付けるべき注意点がいくつかあります。
まず、アップセル施策のやり方次第では、顧客に「押し売り」のように感じさせてしまう場合があります。
顧客がどのような商品に興味があるのかしっかりと読み取り、ニーズにあった上位の商品を勧めることが大切です。
売上の向上よりも、顧客満足度の向上に重きを置くことが重要です。
強引にアップセル施策を行うのではなく、状況に応じてクロスセル施策に切り替えることも考えましょう。
アップセルを促す4つのパターン
アップセルの施策には、主に4つのパターンがあります。ここからはそのパターンを順番に紹介します。
現行商品から上位商品に転換させる
既存の商品ラインナップや料金体系は変えず、そのまま上位商品への転換を促す最もシンプルな手法です。
上位商品のさらなるメリットや費用対効果を顧客に理解してもらうことで、実現しやすくなります。
なお、このようなアップセルをする際には、安易に上位商品を薦めて顧客に不信感を抱かせてしまわないよう、気をつけなければなりません。
この手法は顧客が既存商品に満足して信頼関係を築いていることが、前提になります。
ダウンセルから上位商品に転換させる
前述した通り、ダウンセルとは顧客が求めている商品よりも安いもの、低グレードのものを薦める手法です。短期的には損のように見えますが、注文自体を取り逃がしてしまうという機会損失を防ぐために用いられます。
例えば「予算がネックの顧客にまずは買ってもらいたい」という場合に使います。
それにも似たような手法で、動画配信サービスなどを始めとして以下の手法も頻繁に使われています。
– 無料トライアル
– 初回割引サービス
このように、最初は消極的な顧客に対して、サービスに満足してもらえたり、信頼関係が構築できたりしたタイミングで、低グレードの商品・サービスから、通常グレードあるいは高グレードのものに転換を促します。
商品ラインナップを変更する
現行の商品ラインナップを変更し、そのタイミングで既存商品よりも高単価の商品の購入を促す手法です。
例えば、従来は低グレード、中グレード、高グレードの3つの商品ラインナップがあったとします。
それらを中と高の間のグレード、高を超えるグレードの2つに統合し、既存の低グレードのユーザーには上位グレードへの転換を促します。
この手法は、多くの顧客の継続が見込まれる場合、単価の改善につながるというメリットがある反面、ラインナップの変更を機に離脱する顧客が出たり、上位から下位グレードに移行する顧客も現れたりする点がデメリットです。
なお、商品ラインナップの変更時には「顧客目線」を忘れてはなりません。自社の利益ばかりに気を取られ、顧客が求めていない商品ラインナップを取り揃えることで、顧客が離れてしまわないように注意が必要です。
価格体系を調整する
既存の価格体系を変更して客単価を上げる手法もあります。これは商品・サービスの認知度が上がってきたタイミングで行われることが多い手法です。
例えば、現行は月額1,000円と月額2,000円の2つのプランがある場合に、それぞれ1,200円と2,100円に値上げする手法を指します。
この手法のメリットは、継続性が高いサービスの場合、多くのコストをかけずに収益アップにつながる点です。
一方、値上げに対する付加価値が伴わなければ離脱する顧客も現れることや、新規顧客獲得のハードルが上がるというデメリットもあります。
このように、収益アップが望める反面、離れていく顧客も現れる可能性があるため、この値上げ手法を実施する場合は、長期的な目線を持ちタイミングを見極めて決断しましょう。
アップセルの方法として、他にも以下のようなものが挙げられます。
– ボリュームディスカウント
– 評判の高い口コミを紹介する
自社のサービスや商品にあったアップセルの方法をぜひ検討してみてください。
アップセルに成功するための5つのポイント
ここからはアップセル施策を成功させるためのポイントを順番に解説します。
既存のデータを分析する
アップセルに成功するには、顧客が何に困っており、何を求めているのかを知ることが欠かせません。リサーチをせずに購入単価を上げると顧客のニーズに合わずに離脱につながる可能性があります。
例えば、以下のポイントを分析することで、顧客をより深く理解することが大切です。
– 顧客の購買履歴
– サイト内の行動履歴
– 問い合わせ内容
– セミナー・キャンペーンでの反応
ハイグレード品の付加価値を高める
より高いグレードの商品に誘導するには、高グレード品の魅力そのものを高める必要があります。ただ値段を上げるだけだと、顧客はメリットを感じられません。
むしろ「高い代金を支払う分、損をするのではないか」という印象を持たせてしまうでしょう。そのため、高グレードの商品・サービスは、低グレードや中グレードよりも圧倒的なメリットを提供し、明確な差別化を図る必要があります。
顧客ロイヤリティを高める
「顧客ロイヤリティ」とは、顧客がブランドや商品、サービスに対して感じる「信頼」や「愛着」を指します。
ロイヤリティが高い顧客は、リピート率が高く良好な関係が築けている状態です。
現在のグレードから上位のグレードに誘導するためには、まず現在のグレードでしっかりと価値を感じてもらい、愛着を持ってもらう取り組みが欠かせません。
その上で、さらに「このような機能があればもっと便利になる」というニーズに対して、上位グレードで応えるラインナップ設計をするとアップセルにつながります。
購入単価を上げる際は、このようにしっかりとした信頼関係を事前に構築し、顧客に「押し売り」と感じさせないようにしましょう。
また、顧客分析においては、「NPS(ネットプロモータースコア)」も効果的です。これは調査対象者に特定の企業やブランドに対するロイヤリティを測る手法を指します。
製品・サービス、ブランドを周囲の人物に薦める可能性について0から10までの11段階で答えてもらい、そのスコアに応じて顧客を「批判者」、「中立者」、「推薦者」に分類することで分析します。
顧客ロイヤリティについて詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください↓
効果やメリットを伝える
アップセルの成功には、上位グレードに乗り換えることの効果やメリットを顧客に正確にアピールすることも大切です。
基本的に人や組織は変化をする際に納得感を求めるものです。そのため、変化を促すには効果やメリットがあることを正確に理解してもらう必要があります。
費用対効果を示す
効果やメリットがあることを理解してもらうのに加えて、費用対効果が高い、あるいは価格に見合った価値があることもアピールする必要があります。
顧客からすると、上位サービスを選ぶことでコストが増えてしまうことに対して不安になるのは当然です。
そのため、現在のサービスから上位サービスに乗り換えると、どのようなメリットがあるのか、それは費用に見合っているのかについて、根拠も示しながら提案しましょう。そうすることでアップセルに成功しやすくなります。
アップセルの実践に役立つツール
アップセルの施策を実行するにはツールがあると便利です。ここでは3種類のツールを解説します。
アクセス解析・分析ツール
アクセス解析ツールとは、Webサイトのユーザー属性、デバイス・環境、行動、CV数などWebサイトのあらゆるアクセス記録を管理・分析するツールです。
例えば無料で使える代表的なアクセス解析ツールに「Google Analytics(グーグルアナリティクス)」があります。
アップセルを目指す際は、「低〜中グレード品のユーザーはどのようなページを見ており、どのような関心を持っているのか」、「商品選びではどのようなポイントに注目しているか」などを分析します。
その結果、顧客の関心やニーズが明確化し、どのような訴求をすればアップセルにつながるのか仮説を立てやすくなります。
以下は無料で使えるアクセス解析ツールの例です。
– Google Analytics
– Similar Web
– Pt engine
– Juicer
– FCアクセス解析
– 忍者アクセス解析
– アクセス解析研究所
– User Localスマートフォン解析ツール
販促ツール
販促ツールとは、ユーザー情報を管理し、最適なタイミングで最適な商品・サービス、キャンペーン情報をレコメンドするツールです。
例えば、CRMやMA(マーケティングオートメーション)などがあります。販促ツールがあれば、顧客関係の管理や、マーケティング活動の効率化・自動化が可能です。
顧客情報を一元管理することで効率的かつ深く分析できるので、より上位グレードに興味がありそうな顧客を洗い出すことができます。
また、個別に最適なメールを送信するといったきめ細かい販促も可能で、アップセルに役立ちます。
Web接客ツール
Web接客ツールとは、顧客の行動から心理状態を分析し、それに合わせて最適な提案を行うツールです。
例えば、ポップアップで関連商品を提案する機能を持つツールや、チャットで問い合わせ対応ができるツール、特定の行動を取った顧客にだけクーポンを発行したり、チャットボックスを表示させたりできるツールがあります。
特に「チャットボット」はロボットがチャット対応を人に代わって行うツールで、アップセルの提案をプログラムすることも可能です。
初歩的な疑問の解決だけでなく、各ユーザーの好みに合わせた商品・サービスの提案や、ハイグレード商品の提案なども行い、アップセル促進に役立ちます。
チャットボットを導入してアップセル施策をした事例
株式会社フロムココロ
導入の目的:CVRの改善
導入後の成果:CVRが150%改善
自社のEC商品「デイリーワン」のマーケティング担当を務める湯浅さんは、サイトからの商品購入率(=CVR)を高めるべく、様々な施策を試していました。
年々厳しくなる傾向にある景品表示法をはじめとした法律の影響を受けるなかで、商品LP(ランディングページ)内のクリエイティブの順番や文言を変えるといった地道な施策を積み重ねる日々。
しかし、それらの施策も数値改善のインパクトとしては物足りず、残されている施策は徐々にジリ貧となりました。
そこでCVRを改善する起死回生の一手として導入したのが、チャットボット。
チャットボットであれば、設置するサイトや購入カートのシステム面に対して大きな変更を強いることなく、CVRや問い合わせ数といった成果に大きな影響を与えることができます。
チャットボットの低い導入ハードルと大きな効果という特徴を示す事例のひとつと言えるでしょう。
また、CVRの改善施策以外に、商品注文完了後のアップセル施策も行い、アップセル率が5%向上しました。
こちらの事例に関してさらに詳しい内容にご興味を持っていただいた方は、下記の記事も参考にしてください↓
チャットボットについて詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください↓
まとめ
アップセルとは、高付加価値の上位商品を薦めることで、購入単価を高めると同時に顧客満足度のアップを狙う手法です。
成功するとLTVのアップや顧客単価のアップにつながりますが、顧客との信頼関係が不可欠であり、また失敗すると逆効果につながることがあります。
そのため、事前に信頼関係をしっかりと構築し、顧客ロイヤリティを高めてからアップセルを実行していきましょう。
本記事で紹介した、アップセルを成功させる施策やツールを参考に、継続的な購入単価のアップに役立ててください。